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神戸家庭裁判所姫路支部 昭和48年(家)881号 審判

申立人 鈴木明(仮名)

相手方 鈴木綾子(仮名)

被相続人 鈴木武雄(仮名)

主文

1  被相続人亡鈴木武雄の遺産を次のとおり分割する。

(1)  申立人は次の不動産を取得する。

兵庫県○○市○○町○○番

宅地 二〇四.三六平方メートル

同地上○○番

木造瓦葺二階建 居宅 一階二七.九二平方メートル

二階 一二.四三平方メートル

(2)  三菱信託銀行株式会社貸付信託(神戸支店扱)のうち

一五三回は号昭和四二年一二月二〇日設定、四七年一二月二〇日満期五〇万円

二〇三回い号昭和四七年二月二〇日設定、五二年二月二〇日満期二〇〇万円

二〇五回ろ号昭和四七年四月二〇日設定、五二年四月二〇日満期三五〇万円

および同信託銀行保管の貸付信託金の収益金全部(昭和四九年五月八日現在で七八六、二一一円)は申立人の取得とする。

(3)  三菱信託銀行株式会社貸付信託(神戸支店扱)のうち

一四九回い号昭和四二年八月二〇日設定、四七年八月二〇日満期三〇〇万円

一五三回は号昭和四二年一二月二〇日設定、四七年一二月二〇日満期一〇〇万円

は相手方の取得とする。

(4)  株式会社但馬銀行○○支店普通預金(昭和四九年五月八日現在で一一二、二〇〇円)のうち一三、三一六円は相手方の取得とし、残額は申立人の取得とする。

2  本件不動産鑑定費用および電話加入権評価費用合計四三、〇〇〇円のうち二八、七〇〇円は申立人の負担とし、残額一四、三〇〇円は相手方の負担とする。相手方はこの負担額を申立人に支払わねばならない。

本件遺産管理費用五〇、〇〇〇円のうち一〇、〇〇〇円は申立人の負担とし、残額四〇、〇〇〇円は相手方の負担とする。相手方はこの負担額を申立人に支払わねばならない。

理由

本件の審理および審判に移行前の本件当事者間の遺産分割調停申立事件である当庁昭和四七年(家イ)第一五五号事件の調査の結果によれば次の事実が認められる。

第1相続人と相続分

1  被相続人鈴木武雄(以下単に武雄という)は昭和四七年五月一日○○市において死亡し、その妻である相手方鈴木綾子(以下単に綾子という)と武雄の養子である申立人鈴木明(以下単に明という)の両名を相続人として相続が開始した。したがつて法定相続分は民法九〇〇条により、綾子が三分の一、明が三分の二である。

2  明は大正一三年四月一日、四歳のころ武雄と当時の妻ふみ夫婦と養子縁組の届出をしたが、明の実母かよはふみと姉妹の関係にあり、明は生後間もなくから事実上養子として育てられ、長じて武雄から学費を出してもらい、○○大学工学部を卒業し、○○化学工業株式会社に勤めて今日に至り、昭和二四年結婚した妻との間に二児を儲けたが、武雄の老後の扶助については、その身の廻りの世話をすることがなかつたのは勿論、金銭的な援助をした形跡もない。

3  武雄の妻ふみは昭和二二年死亡し、後妻として綾子が昭和二五年五月二五日武雄と婚姻の届出をした。

ところが綾子と明およびその妻とは気が合わず、数ヵ月間同居したほかは明の勤務の関係もあつたが、武雄夫婦と明夫婦は同居することなく、両者間は冷え切つた関係となつて今日に至つた。

4  武雄は明治二〇年生れで綾子と結婚したとき既に六三歳で内科小児科の開業医ではあつたが患者が少く老齢のこともあつて昭和三六年六月には廃業届を出して爾来医業による収入は無くなり、いわゆる売り食いの状態となつた。

5  一方綾子は、後で詳述するように、結婚後間もなくそれまでの経験を生かしてタイプ学院を経営し、その収益の相当部分を夫婦の生活費中財産維持の諸経費に充当してきたものである。

第2遺産およびその評価額

1  武雄の遺産として現存するものは下記のとおりである。

(1)  不動産 主文掲記の宅地、建物(以下本件不動産という)

この評価額 昭和四七、五、一当時 一〇、〇九五、〇〇〇円

現在         一四、二二二、〇〇〇円

(不動産鑑定士堀田博之作成の昭和四九年二月四日付鑑定評価報告書および同年五月二一日付補正書による評価額を相当と認める。)

(2)  三菱信託銀行株式会社貸付信託(神戸支店扱)

(設定日) (満期日) (金額)

一四九回い号 (昭和)四二、 八、二〇 (昭和)四七、 八、二〇 三〇〇(万円)

一五三回は号     四二、一二、二〇     四七、一二、二〇  五〇

一五三回は号       同上           同上     一〇〇

二〇三回い号     四七、 二、二〇     五二、 二、二〇 二〇〇

二〇五回ろ号     四七、 四、二〇     五二、 四、二〇 三五〇

以上合計一、〇〇〇万円

(3)  上記貸付信託収益金残高 昭和四七、五、一当時 〇

〃         四九、五、八現在 七八六、二一一円

(4)  株式会社但馬銀行○○支店 普通預金(通帳番号三三三二)

昭和四七、五、一当時 三〇六、七五七円

〃 四九、五、八現在 一一二、二〇〇円

この預金の中から、綾子は武雄死亡後の昭和四七年六月二一日に二〇万円を引出している。

2  綾子は昭和四七年五月一四日兵庫県医師会互助会から弔慰金二四四、〇〇〇円を受領しているが、これはその名称、金額等からみて、武雄の葬祭料として支払われたものとみるのが相当であり、綾子もそのような使途にあてたものと認められるので、これは遺産分割の対象たる遺産には属しない。

第3綾子の特別受益

綾子は武雄から下記のとおり生前贈与を受けているが、民法九〇三条の生計の資本として贈与を受けたものは、電話加入権および現金五〇〇万円とみるのが相当である。

1  電話加入権 〇〇七二-〇八五一番

昭和四六年八月六日綾子名義に書換

この評価額 昭和四七年五月一日当時一一万円

(神戸地方裁判所執行官藤森喜代平の評価額を相当と認める。)

2  現金 五〇〇万円

(1)  綾子は昭和四六年三月二四日一、〇〇〇万円の贈与を受けたものと認められる。

(2)  ところで武雄は前記のとおり医業収入の減少に伴い

(イ) 昭和三一年ころ○○市内○○町○○番 宅地 九六、九二平方メートル

(ロ) 同三九年四月ごろ同町○○番 宅地三八九、〇五平方メートルおよび同地上建物

(ハ) 同四二年四月ごろ同町○○番 宅地五二、三五平方メートルおよび同地上建物

(ニ) 同年一一月ごろ○○市○○ 家屋四三、八〇平方メートル

等を売却し(イ)につき一〇五万円、(ハ)につき三〇〇万円、(ニ)につき二〇〇万円程度の手取金を取得し、(ロ)については三、〇〇〇万円の代金であつて仲介手数料を差引き二、八五〇万円位の収入があつたものと認められる。しかしながら、このうちから現存の宅地、建物建築のために数百万円を費したほか、多額の税金や諸経費、生活費に支出しているものとみられる。なお若干の所有株式の売却益をさほどの額のものではなく、生活費に大部分が消費され、結局不動産、株式の処分益として二、〇〇〇万円余が残存し、その中から綾子に一、〇〇〇万円を贈与し、残額が一、〇〇〇万円余となつたものと認められる。

(3)  綾子は前記のとおり昭和二五年ごろから武雄死亡後までタイプ学院を経営し(武雄からも一部資金の提供を受けたものと認められる)その間盛衰はあつたが、多いときは月五、六万円の純益をあげ、その相当部分を夫婦の生活費に入れ(特に前記昭和三九年四月ごろの大口不動産売却による収入が入る以前において)これによつて武雄の財産の減少を防止するにつき若干の寄与があつたものと認められる。

(4)  武雄は老齢の上に昭和四〇年ごろからは腰を傷めて歩行困難となり、その身の廻りの世話についても綾子に相当の負担がかかるようになつた。

(5)  もとより夫婦は互に扶け合い、その収入に応じて共同生活の費用を分担すべきであるけれども、綾子は通例の夫婦以上に家計に対して経済的寄与をなしたものといわねばならない。

(6)  上記のような家庭事情のもとに、武雄は、余命いくばくもないことを知つて綾子に対し一、〇〇〇万円の贈与をしたのであるから、その五割は綾子の家計に対する特別寄与分の清算と老齢の夫に対する長年の看護の労に報いる趣旨の贈与と認めるのが相当であり、結局、綾子の将来の生計の資本のための贈与分は五〇〇万円と認められる。

(なお、一、〇〇〇万円の贈与額に対しては四二八万五、〇〇〇円の贈与税が徴収されているので、実質的に利用し得る金額は五七一万五、〇〇〇円に過ぎない)

第4具体的相続分

特別受益者の相続分算定の基準時は民法九〇三条、九〇四条により相続開始時(昭和四七年五月一日)によるべきものと解せられるので、これによつて計算すると次のとおりとなる。

1.相続開始時の遺産

本件不動産 10,095,000円

(47.5.1当時の評価額)

貸付信託  10,000,000

普通預金     306,757

綾子の特別受益の持戻計算

電話加入権    110,000

(47.5.1当時の評価額)

現金     5,000,000

以上合計    25,511,757円

2.したがつて具体的相続分は次のとおりとなる。

明 25,511,757円×2/3 = 17,007,838円

綾子(25,511,757円-17,007,838円)-(110,000円+5,000,000円) = 3,393,919円

3.よつて両名が遺産を取得すべき割合は次のとおりとなる。

明 (17,007,838/17,007,838+3,393,919) = 0.8336

(小数点以下第5位を四捨五入)

綾子 1-0.8336 = 0.1664

第5遺産分割により両者が取得すべき金額

1.遺産の合計額

(遺産分割のための遺産の評価は分割時の時価によるのが相当)

本件不動産(現在の評価額)    14,222,000(円)

貸付信託合計           10,000,000

貸付信託収益金残高           786,211

普通預金残高              112,200

※ 普通預金から綾子が引出した分の戻入 200,000

合計               25,320,411円

※ 前記のとおり綾子は武雄死亡後の昭和47年6月21日に但馬銀行○○支店の普通預金から20万円を引出しているので、これを綾子が遺産の中から先取りしたものとして一旦これを遺産の中に戻入れて遺産の総額を計算したうえ、両名の取得金額を計算し、綾子の取得分から20万円を控除する方法によつて清算するのが相当である。

2. よつて両者の取得すべき金額は次のとおりとなる。

明 25,320,411円×0.8336 = 21,107,095円(円未満切上)

綾子 (25,320,411円-21,107,095円)-200,000円 = 4,013,316円

第6両者の取得すべき具体的財産

本件家屋には現在、明、綾子ともに居住せず空家であるが、本件不動産の評価額は綾子の取得すべき金額の三、五倍に及んでいる。したがつてこれを綾子に取得させるときは、厖大な差額金を明に支払わねばならないこととなるので、それは不適当である。よつて綾子には貸付信託の中から二口四〇〇万円を取得させ、端数額の一三、三一六円は但馬銀行○○支店普通預金の中から取得させることとし、残余の遺産全部を明に取得させるのが相当である。

第7本件手続費用の負担について

1  審判記録によれば本件不動産鑑定費用に四〇、〇〇〇円を要し、電話加入権の評価費用に三、〇〇〇円を要したことが認められるところ、この合計四三、〇〇〇円については、これをほぼ法定相続分に応じて分担させることとし、申立人に二八、七〇〇円を、相手方に一四、三〇〇円を負担させることとする。申立人は相手方の負担すべき分をも立替予納して支払ずみであるから、この清算のため、相手方は申立人に対し一四、三〇〇円を支払う義務があることになる。

5 調停記録によれば遺産管理人弁護士後藤秀夫に五〇、〇〇〇円の報酬を支給したことが認められるところ、この遺産管理費用は諸般の事情(相手方は管理人に対し武雄名義の預金通帳その他一切の書類、金庫の鍵の引渡を命ぜられたのにこれに応ぜず、さらに管理人が相手方宅に赴いて説得したにも拘らず、なおも引渡を拒否して応じなかつた事実など)を勘案し、一〇、〇〇〇円を申立人の負担とし、四〇、〇〇〇円を相手方の負担と定める。

しかして申立人は相手方の負担すべき分をも立替予納して支出ずみであるから、この清算のため相手方は申立人に対し四〇、〇〇〇円を支払うべき義務があることになる。

よつて、手続費用の分担につき家事審判法七条、非訟事件手続法二七条を適用して主文のとおり審判する。

(家事審判官 梶田寿雄)

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